訪問介護員として

えびな北の訪問事業係に異動が決まった当初、「訪問介護って何?」というのが率直な気持ちでした。料理をして掃除をして、トイレの手伝いをして…そんな漠然としたイメージしかありませんでしたが、生来の怠け癖が災いし「何とかなるだろ」とロクに勉強もしないまま4月の配属の日がやってきました。
初めての訪問は食事の準備。先輩のサービス提供責任者に同行してもらい、一緒に調理をしました。そのご利用者は多少ぶっきらぼうなご様子でしたが、何も言わず準備された食事を全て召し上がってくださり、ほっと一安心…したところでそれは起きました。
「そこに座りなさい」と促され、ご利用者のお側に先輩と共に正座。「これあんたが作ったの?」「はい」といったやりとりの後、厳しいお叱りの言葉をいただきました。要約すると「男は台所に立つべきではない。自分は男に作ってもらったものを、味はどうあれ、おいしいと思うことはできない」とのことでした。
お叱りを受けた当初、私はそれを受け入れることができませんでした。なんて理不尽なこと、男が作ったって女が作ったって味が変わらなければいいじゃないか!と。もちろん、態度には出さなかったつもりですが、鬱々とした気持ちが残りました。
しかし、訪問介護の仕事を続けていくうちに、お叱りを受けた性別のことなどよりも、もっと根本的な原因に目を向ける必要があったことに気付くようになりました。それは、私が、そのご利用者のことを全く「知らなかった」こと。その方が今までどのような生活をしてきて、どんな考えを持ち、どのようなこだわりがあるか、そういったことを一切頭にいれず、中途半端な気持ちでお宅に訪問してしまったこと、それが私の失敗であり、お叱りを受けた原因であったと今では考えています。もしも、事前にしっかりと情報を集めて援助にあたることができていたのならば、もっと違った結果になっていたのかもしれません。
訪問介護は個別ケア。ご利用者ひとりひとりのこだわりや生活習慣を介護計画書に盛り込んで反映する必要があります。まだまだ未熟で、ご満足いただける援助を提供できているとは到底言えませんが、少しでも「その人らしい」生活を送ることの手伝いができるよう、時にはお叱りを受けながら頑張っていきたいと思います。
兼子悟